Dr.酒井の『ピアニストの手』

障害をきたした曲目

オクターブ打鍵の際の、親指と小指の開く角度。

バネ指患者の救世主、らしいDr.酒井、こと 酒井直隆博士の研究成果は、細幅鍵盤推進者の私にとっても興味深いので、ご紹介します。
Dr.酒井の、アクセスしやすい業績は著書『ピアニストの手ー障害とピアノ奏法』(ムジカノーヴァ1998年)および『解決! 演奏家の手の悩み』(ショパン2012年)に示されている。ご自身がピアノのレッスンを受け、医師としても一貫してピアニストの障害にとり組んできたDr.酒井は、音楽と医学を結びつける希有な存在だ。
たとえばピアニストが障害をきたした際に練習していた曲目の一覧。きわめて興味深い。
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私自身、発症時に練習していたのはショパン練習曲作品10-1, 25-1, リスト・パガニーニ大練習曲第3番だったが、このリストには入っていない。(なぜだろう?)
さらにDr.酒井は、どのような練習の際に障害が発症したか、についても調査している。
sakai.anlass https://musil0723.sakura.ne.jp/dufyfan/wp-content/uploads/2019/04/sakai.anlass.pdf
圧倒的にオクターブの打鍵の際に、障害が発生していることを把握している。
そしてDr.酒井は、手の小さなピアニストは、オクターブを打鍵する際に、親指を大きく拡げて打鍵せざるを得ない、それゆえに親指には大きな負担がかかる、と説明している。
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*いくつかの疑問
Dr.酒井は、オクターブを弾く際の親指と小指の緊張と弛緩を計測した。そして、打鍵の合間に上手に弛緩し、打鍵の際に緊張する、というテクニックがあれば障害が発生しない、という説を唱えている。
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しかし、たとえば指の短い私でも、6度ならラクに打鍵できる。つまり親指がド、小指がラを押えるなら、ただボンと打鍵すれば済む。緊張も弛緩も要らない。同様にたとえばスパンが(世界的なレベルのピアニストの)22,4㎝以上のピアニストならば、8度(オクターブ、16,5cm)を打鍵するのに、緊張も弛緩も要らないのだ。ところがDr.酒井は、障害が発症するのはピアニストのテクニックの良し悪しに原因があるのでは、と考えて、「ノースウェスタン大学のブランドフォンブレナー女史」とか「クリーブランド・クリニックのレダーマン教授」とか、あれこれの教授に質問したけれども、「テクニックとの関連は調べたことがない」という回答だったという。えーと、失礼ながら、これはテクニックの問題ではないです。人類の四分の三がカヴァーできない、デカすぎる鍵盤が元凶です。それはまあ、個人によってあれこれの故障、不具合が発生することはあるでしょう。しかしDr.酒井が書いているように、障害の3分の1は腱鞘炎であり、その原因はオクターブ奏法にある、のは、ものすごくメジャーな事実です。
Dr.酒井は細幅鍵盤について(正確にはクラヴィコードのようなピアノについて)楽器メーカーに問い合わせた。それに対する回答は「既に30年前の試みで小サイズのピアノは市場では歓迎されないことがわかっているのだから再度手をつけることはない」との返事だった。「鍵盤サイズは現行のままでゆきそうである。」(2012年『解決!演奏家の手の悩み』27頁)とのこと。――ということは、1980年代の回答と認識だった。
はーい。「鍵盤サイズは現行のまま」でよい方々はそれでいいでしょう。でも現行サイズでバネ指になったり、届かなくて弾けない人は? 細幅鍵盤が必要です。これが普及すると整形外科の患者さんが減るかもしれないけれども。もちろんピアニストの味方のDr.酒井は細幅鍵盤に賛成してくださるでしょう。

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