もしサメが人間だったら ―― 抑圧都市計画を作るだろう
ブレヒトの有名な作品に「もしサメが人間だったら」というのがある。一部を紹介する。
もしサメが人間だったら、サメは、小魚のために海の中に巨大なケースを作ってあげるだろう。そして、そのケースの中に、植物や動物、あらゆる栄養源を入れてやるだろう。サメは、いつもそのケースの中が新鮮な水であるよう、気にかけるだろう。小魚の気持ちが落ち込まないように、ときどき大きな水祭りを行うだろう。楽しい小魚の方が落ち込んでいる魚よりおいしいからね。/ もちろんその大きなケースの中には学校もあるだろう。その学校で、小魚は、サメの口の中への泳ぎ方を習うはずだ。主要教科は、当然、小魚の道徳教育であろう。小魚は、「自ら喜んで自分の身を犠牲にすることが最も偉大なことであり、最も素晴らしいことなのだ」、「子魚はすべてサメを信じなければならない。特に素晴らしい未来を世話してやる、とサメに言われた時には、ちゃんとサメを信じなければならない」、と教授されるだろう。そして、従順さ(Gehorsam)を学ばなければ、小魚の未来は保障されない、ということを教わるだろう。(Dr. Kei氏のHPよりコピーしました。)
まあこれは、小魚がサメの食糧になるという枠組みの話。これから、サメのような組織が小魚のような人間たちをどのようにしゃぶりつくすのか、記してみたい。
かりにサメの組織のひとつを「南武鉄道」と呼ぶことにしよう。(えーと、大正時代にあったらしい南武鉄道とは関係ありません。東武、西武、京王、小田急、東急とも関係ありません、たぶん。)南武鉄道はとっても親切です。山手線のターミナル駅には「南武デパート」があって、そこではブランドものの洋服も買えるし、お中元やお歳暮の発送もできる。カードを使えばポイントもたまる。そこから他県にまで延びる南武鉄道の沿線の各駅には「南武ストア」があって、とっても新鮮な食料品とか洗剤とかティッシュとかも安く買える。で、ターミナル駅から40分とか1時間の私の駅からは、住宅地まで「南武バス」が走っている。1時間に3本程度だが。この住宅地も「南武開発」が造成したものです。
不思議なことにこんなド田舎なのに、住宅地は駅から徒歩15分とか18分ぐらいの遠隔地にしかない。(駅から3分ぐらいのところに、だれもくつろいでいない殺風景な公園があったりする。あたりまえだ、近くに住宅がないのだから。こういう擬装公園は、住宅地区を遠くに設置するための口実になっている。)住民はやむをえず車を買う。妻が運転できれば、夫を朝晩駅まで送り迎えする。そのため事故も起きるが。
というわけで都心から放逐された都民は沿線の都市のさらに奥地にやっと住宅を購入する。段ボール製のウサギ小屋だから10年程度で価値はなくなる、土地以外は。ローンを組む、ということは銀行に利子を納入するということだ。車もローンで買う。銀行にお金が入る。自宅にカースペースがなければ民間駐車場と契約する。これは地主さんにお金が入る。(私自身かつて埼玉県の某市に住んでいたからリアルに記述できる。)こうして購入した車も12年目以降は毎年車検になるので、新車に買い換えざるをえない。
もし都心にリーズナブルな賃貸住宅がゲットできたら、わざわざ田舎にウサギ小屋を購入する必要はないだろう(これには政府の持家政策もからむし、国民のお上不信もからむが、別項で論じる)。職場まで片道一時間、往復2時間を都民は犠牲にする。年間300日勤務するとして、600時間のロスだ。30年勤続するならば18000時間のロス、つまり750日、まるまる電車に乗っていることになる。女性は痴漢の被害者になる。(鉄道公安官は埼京線を重点的に監視しているとかいうが、まさかお上は鉄道公安官の仕事を確保するために通勤通学ラッシュを演出しているわけではないでしょうね。)ドイツ人は年間60日、日本人より休暇をとっている。ふだんの生活も職住接近がふつうだ。こんな日本人の平均寿命がドイツ人より1年、2年長くてどんなメリットがあるのだ?)
貧しい都民の日々の生活はきびしい。それはまず抑圧都市計画のせいだ、と断言したい。「親の反対を押し切って東京に出てきた私が悪いのよね」なーんて、哀れな小魚、いやミツバチが自己反省するのは、お人好しというものだ。ミツバチとおなじように、蓄えたハチミツは養蜂業者が取りに来て、遠心分離機でゲットしてゆく。ミツバチは防護服の業者にワンワンたかるけれども、そこは畜生の浅ましさ、一件がすめばまたバカ正直に巣箱に蜜を集積してゆく。普段着の養蜂業者を見分けてミツバチが集中攻撃したために業者がショック死したというニュースは聞いたことがない。私自身住宅ローン、車のローン、そして「南武鉄道」の運賃などで何十万円、いや何百万円ゲットされたか分からない。そういう「私」が首都圏には何百万人もいるのだ。ということはドイツではありえない、金融機関の収入が数千億円から数兆円あるということだ。(それゆえ、某首相は開発途上国へポンと数千億円の経済援助を投げ与える。日本が金持ちだからではない。まじめで勤勉な日本人が「天才」だからだ――本当の天才には申し訳ありません。)
東武線の寄居とか小川からは都心まで3時間かかるという。往復6時間。時間帯によっては立ちっぱなしで。給料の何割かはローンで消え、ドイツ人より60日多く働いて。停年のころにやっとローンを払い終えて、ハエのように死んでゆく。女性は痴漢の被害に遭う。これが先進七カ国(G7)のメンバーの国の国民なのだろうか。もっとひどい国家はいろいろあるだろう。ましな方かもしれない。それでもG7のなかでは最低レベルの国民生活ではないだろうか。きつい表現かもしれないがミツバチたちを「国奴」と呼びたい。昆虫よりマシな頭脳をもっているなら、自分たちがどのように巧妙に搾取されているか、放逐都民たちは認識してもよいのでは。