市街化調整区域は誰のため?

これは50年前に実際にあった話。文京区に住む知人が家を改築しようとした。30坪の敷地。ここに鉄筋で4階建てを造る。1Fは貸駐車場にして近所の車2台ぐらいを入れれば、ローン返済がラクになるだろう。2Fと3Fは居住区域にする。4Fはワンルームの住居を2つ造ってお茶大の学生などを入れれば、回転のいい家賃収入も得られる。そういう計画だったが、許可が下りなかった。市街化調整区域だから現状を越える新築、改築はダメなのだそうだ。というわけで元の木造二階建てとほとんど変わらない鉄骨住宅を建てることしかできなかった。おまけに半地下の駐車スペースが違法ではないかとチクるご近所がいて、この半地下に土砂を入れさせられたという(「お上のなさることに間違いはありますまいから。」これは森鴎外の小説の科白。もちろん逆の意味で言っている)。かくしてお茶大の学生二人からは、近所の安いワンルームがとり潰され、車2台は駐車場を取り上げられた。かりにこのあたりの住民100世帯が同様の計画を立てたとしたら、学生200人から都心に住む可能性が取り上げられたことになる。市街化調整区域とは「市街化させない」地域で、ネットで調べると、およそ国土の1割がそのように指定されているらしい。その目的は「全般的に農林水産業などの田園地帯とすることが企図されている」のだそうだ。さて50年後のいま、そのあたり一帯はどうなっているだろうか。まったく変わっていないのだ。むかしの二階建てが、立派な二階建てになって、駐車場の車が外車に変わったぐらいだ。いやはや、文京区のその地帯を「農林水産業などの田園地帯」にする必要がどこにあるのか? 首都のど真ん中に115ヘクタールの皇居が鎮座している。田植えなんかもできるようだから、山手線の内側としてはもうこれだけで充分ではないだろうか。おまけに小石川植物園もある。後楽園もある、鳩山御殿だってある。この上「農林水産業などの田園地帯」を設ける必要がどこにあるのか?(こう書くとお上が意地になって水田を作ったりしかねないから、おそるおそる書くけれども。もう、クレイジーな話だ。)少なくともこの50年の観察によれば、「抑圧都市計画」(と命名することにした)は、都民を都心から放逐するためにある悪法である。なおこれと対照的な「市街化区域」もある。とはいえそこも一種住専、二種住専などの規制が縦横にかかっていて、ほとんど二階建て以下の住居しか建っていない。