ハイルン・ピアノ (Hailun H-1P) に触ってみた

東京ストレットピアノのスタジオにある、ハイルン・ピアノ (Hailun H-1P、以下ハイルンと略す)に触ってみた。もちろんDS 6.0 のピアノである。

4月に納品されたばかりの、ピカピカの新品。
まず、英国の販売業者作成になる(らしい)演奏動画を見てみよう。

音はいいと思う。(若干effect がかかっていることを想定しても。)
さて肝腎の鍵盤の幅はどうなっているか。1オクターブが6インチ、152mmになっていることは、店長のYokoさんがすでに確認している。(標準鍵盤は6,5インチ、165mm)。
ボク Kurze Finger が検証したのは、黒鍵の幅と白鍵上部の幅。

ハイルンの黒鍵上部。きっちり10mmである。これは標準鍵盤ピアノの黒鍵の幅と同じだ。

ブラザー・ピアノ(以下ブラザーと略す)の黒鍵上部。ほぼ8mmである。(クリアランス=鍵盤切断の鋸の幅、約1mm、の黒い溝と区別しにくいが、最上段に視力を集中してほしい。)もちろんブラザーも、ほぼDS 6.0のピアノだ。

これはどういうことなのか? 解釈は2つ。技術力がないために、巾の狭い黒鍵が作れなかった。あるいは、確乎とした方針にしたがって。すなわち指の細いピアニストにとって、巾の狭い黒鍵では、外す可能性が大きくなるから、太いママにした。
同様のことが、白鍵上部についても言える。

ハイルンの「ソ」の上部。ほぼ14mm。(指が入るスペースという意味で、クリアランスの溝も巾と考える。)

ブラザーの「ソ」の上部。ほぼ15mm。ご存知の通り、「レ」の上部よりも、「ソ」「ラ」の上部の方が、狭くなっている。

ここでも黒鍵上部と同様に、解釈は二つ。技術力不足のために黒鍵は標準鍵盤と同じママにして、白鍵だけを細幅鍵盤にした。あるいは、指の細いピアニストなら、狭い黒鍵間にある白鍵上部も余裕で弾けるであろう、と考えて。
*後日三浦ピアノS(後述)より説明があった。確認はとれていないが推測として「技術力の問題ではないと考える」、とのこと。黒鍵部分の鍵盤本体(木部)はいかようにも切り出せる。しかしその上部に貼り付ける黒鍵部分は(図版参照)

((c) イトーシンミュージック。数値は一例。)
樹脂による成型部品なので、成型型から作らなければならない。あるいは黒檀などの高価な素材を加工しなければならない。メーカーとしてはカタログモデルの対費用効果を考えて、標準鍵盤のパーツをそのまま流用したということではないか。(以上。)

(前段の続き)つまり「手が小さい」といってもいろいろあるわけで。ボク Kurze Finger の指は太いので、細い黒鍵でも、そこそこ外さずに弾けるが、黒鍵間の狭い白鍵上部には指が入らないのである。逆に指の細いピアニストは、まったく反対になる。したがって、指のタイプによって、フィットする細幅鍵盤も違うことになる。
今度はハイルンの蓋を開けて、前板を外して内部を探検してみる。

左上にRöslau のロゴ入りのシールが。Röslau はバイエルン州、バイロイトの北東にある町で、その名を冠した鉄鋼メーカーがある。ピアノの内部にピアノ線のメーカー名まで貼付けてあるのは、はじめて見た。Röslau のホームページを貼付ける。
次に、打弦距離を測定してみた。つまり弦とハンマー・ヘッドとの距離である。基準は46mm±1mm である。だが、測定は防音室天井の一灯のサークラインのもと、手暗がりで行われた。カメラのフラッシュが作動しなかったため、打弦距離を客観的に把握することはできなかった。
さらに、アクションはどこの製品か調べようとした。アクションはレンナー社(ドイツ)なのだろうか?(ちなみにウチ、 Kurze Finger スタジオのSteinbuhler-Walter社のDS 5.5のピアノのアクションはレンナー社だった。大橋幡岩も、多くのピアノにレンナー社のアクションを装填している。)

あれこれ調べたところ、ハイルン独自の登録商標をもつアクションであるらしいことが分かった。(参照した各種URLは、本稿末尾にまとめて貼付けます。)
このあと、下の前板を外して、ペダル天秤を調べた。カンカン叩いたりしてみたが、どうやらプラスティックでもなく、ラワン材でもなく、木材をアルミニウムで囲った、きちんとした天秤であるらしい。

こうして見てくると、どうやら手抜きでも安普請でもない、まじめに造ったピアノであるらしいと見当がついてきた。保証書を見てみる。

三浦ピアノは渋谷区と、本郷6丁目にある、1925年創業の老舗である。
東京ストレットピアノの店長Yokoさんは、この三浦ピアノのおかげでハイルンを入手できた。ボク Kurze Finger が、拙HPで紹介してよいか問い合せたところ、丁寧な返信を得た。「納入には半年から一年みていただきたい」とのこと。URLを貼付ける。三浦ピアノ
ではDS 5.5のピアノはどうなるのか? これが次の問題だ。ハイルンでは製作していないのだろうか? いや、製作しているらしい情報がある。

ここにはDS5.5 keyboards! と明記してある。ただしこれはHailun(USA) の頁である。しかも、HU1P となっている(H-1Pではない)。
どうなっているのか、ボク Kurze Finger には見当もつかない。ただし情報が一つある。昨年10月にシュタインビューラー氏が「製作の様子をオープンにビデオ撮影させた」とボクに書いているのだ。Hailun 関係者に撮影させたらしい。ということは、やがてはDS5.5細幅鍵盤をしかるべき規格で作成できるようになるのかもしれない。
最後にお伝えするのは、シンガポールにあるWagner社の、ハイルンについての説明。Wagner社は、創立者が1920年代に日本に留学してピアノ製造技術を学んだという、柾目の通った、しっかりした業者であるらしい。

以下に日本語訳を貼りつけます。
Hailun japanese

以上を総括します。ボク Kurze Finger は元三流ドイツ語教師であって、音大卒でもないし調律師でもありません。責任をもって発言はできません。単なるド素人の感想を述べます。Hailun H-1P は、まじめに作られたピアノであると思います。アメリカで百年以上前に乱造、乱売されたコマーシャルピアノとは、まったく違います。鍵盤のバランス、up weight, down weight も沈み込みも、適正です。(Yokoさんが測定しています。)このあとDS5.5のピアノが入手可能になるか、あるいは現在の黒鍵巾でよいのか、など不確定要素や、個々人のチョイスによる要素もあるので、慎重に決断せざるを得ません。とにかくダメなピアノではまったくない、と思います。
*のちに三浦ピアノSからコメントを頂戴した。「中国のピアノの中で非常に優秀な部類に属します」とのこと。
日本のピアノ・メーカーがいびきを掻いて熟睡しているあいだに、シュトゥットガルトの音楽演劇大学では、スタインウェイのコンサートグランドに、2400万円かけて(!)細幅鍵盤を装着しています。メルボルン、ダラスから Stretto Concert (国際細幅鍵盤コンサート)に多数のピアニストが出演しています。このHailun H-1P は、ボク Kurze Finger の知る限り、日本にたった一台のハイルン・ピアノです。
なんとか、大切に育てたい。
なにはともあれ、歯を食いしばって弾かなくてもいいピアノがあることを、より多くの人びとに知ってもらいたいものです。
参考URL
東京ストレットピアノ
Hailun H-1P
Asahi-Piano
Piano-Gallary
Hailun Piano
HU-1P
Wagner-Piano
Hailun-Wagner-Piano

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