ケアとサポートの問題だ!(細幅鍵盤が消えたワケ)

なぜ昭和の細幅鍵盤はポシャったのか?
ただ細幅鍵盤ピアノを作って「さあどうぞ」と店頭に置いただけでは、誰も買えなかったからだ。ケアとサポートが整備されていないのでは、購入できるわけがない。

1.サイズアップ、サイズダウンが保証されていなかった。つまり将来子供が成長して標準鍵盤(DS 6.5)に替えたい場合、無料で(ないし廉価で)交換しますよ、という保証がなかった。ピアノを丸ごと買換えるほかはない。これでは買えなかった。(実際問題として、DS 6.5にサイズアップするニーズは、それほどないと思われるが、1980年代の親たちは、それを考慮せざるを得なかった。)

2.汎用性を保証するサポート体制がなかった。自宅の細幅鍵盤で練習しても、レッスンを受ける個人教授宅、あるいは音楽教室に細幅鍵盤がないのでは、レッスンにならない。さらに発表会場、コンクール会場・・・などなど。この保証がないのでは、購入できるわけがない。

では将来に向けて、どのような対策が必要なのか。

3.まず「シニア向け」と「ジュニア向け」と分けて考えるべきである。
シニア向けは基本的に「売りっぱなし」で大丈夫だろうと思われる。身体が成長する訳でもなく、国際的大舞台を夢見る訳でもない。好きな曲を自分の手に合った鍵盤で弾ければ満足なのだから。ケアが必要になるとすれば、サイズダウン(DS 6.0からDS 5.5、DS 5.5からDS 5.1など)のケアぐらい。サポートが必要になるとすれば、レッスンの教師ないし教室に同サイズのキーボードを備えること、ぐらいであろう。

4.「ジュニア向け」のケアとサポートは、複雑多岐にわたる。ジュニアは身体が成長するのでスパンが広がる。そして将来のコンペティション、国際舞台での活躍も視野に入れている。(実際にそうなるのは千人に一人もいないのだが、細幅鍵盤を購入するにあたって、親は考慮に入れる。)まず鍵盤のサイズアップ。DS 5.1からDS 5.5、さらにDS 6.0からDS 6.5まで、ニーズに応じてメーカーが無償(ないし廉価)で交換できなければならない。(さらに。アップライト・ピアノの場合は――グランドピアノと違って――丸ごとスポンと入替える訳には行かない。鍵盤棒を一本一本取り替える。その鍵盤棒も機種によって違うらしい。それゆえ、「サイズ変更可能なアップライト・ピアノ」を数機種、メーカーは確定し、各種サイズの交換用鍵盤棒を常時準備しておかなければならない。)

次の問題は、汎用性のサポート。レッスンを受ける個人教授宅ないし音楽教室に同サイズの細幅鍵盤が常備されていなくてはならない。これは、個々の個人教授ないし音楽教室が、自腹で購入することになる。可能性としては、受講生の数に応じてメーカーが割引き料金で細幅鍵盤ピアノを提供することが考えられる。(グランドピアノの場合は、鍵盤セットを廉価で提供する。)さらに。具体的なケースとして、小中学校や高校の体育館、講堂のピアノがある。文化祭、入学式、卒業式等では生徒、それも主に女子生徒がグランドピアノを弾くのが一般的だ。(音楽教師はむしろ合唱指導、ブラスバンド指揮などをやっている。)これらの「学校行事のピアノ」をどうするか。当面「ユニバーサル」つまりDS 6.0で置き換えるのが急務であろう。他のサイズ、DS 5.5やDS 6.5の鍵盤セットを常備するかレンタルするか、等はそれぞれの学校の判断によるだろう。*参考1:シュタインビューラー社は、細幅鍵盤搭載のグランドピアノを音楽学校などにloanで貸し出している。*参考2:動画を見る限り、グランドピアノの鍵盤セットの入替えは、左右の木ネジを外して、入替え後に木ネジを締めるだけである。これは調律師に委嘱するまでもなく、講習を受けた音楽教師でもできるのではないか。少なくとも学校行事用のグランドピアノについては、その程度で間に合うと推測される。*参考3:ロンダ・ボイル氏(メルボルン)は、幼少時はキーボードないしレンタルのアコースティックで練習し、本当に続けることになったら購入を考えるという選択肢を示唆している。

その上のレベル、公民館、音楽ホール、文化会館などのグランドピアノについては、むしろ問題は少ない。細幅鍵盤のグランドピアノを丸ごと購入すればよいからだ。それが叶わぬなら、細幅鍵盤の鍵盤セットを常備(またはレンタル)して入替えるだけである。それゆえメーカーは「サイズ変更可能なグランドピアノ」を何機種か決めて、それ用の鍵盤セットを準備、リース、ないし販売すればよい。

こうして見てくると「ジュニア向け」の問題は、アップライト・ピアノ、それも個人教授宅、ないし音楽教室のアップライト・ピアノで細幅鍵盤が弾けるかどうかが、もっとも難しいことになる。当面の対策としては、まずレッスン用のピアノを「ユニバーサル」つまりDS 6.0に変えることだ。「手デカ」用のピアノDS 6.5は、ジュニアにはほぼ不要だからだ。そして〇〇音楽教室はスポンサー付きが一般的なので、他のサイズ、DS 5.5やDS 5.1なども、施設の備品として備えることはできるだろう。個人教授の場合は、キーボード(DS 5.5、DS 5.1)で対応可能とするほかはないかもしれない。アコースティックな共鳴は得られないが、まだまだ教えることはあるでしょう。

5. 酒井直隆医師の挫折
『解決!演奏家の手の悩み』(株式会社ショパン、2012年)でDr.酒井は「ピアノの鍵盤幅は変えられないか?」というコラムを書いている。(26頁~)

ここで「既に30年前の試みで小サイズのピアノは市場では歓迎されないことがわかっているのだから再度手をつけることはない、との返事だった。」とある。
なぜ「歓迎されない」のか、その説明はない。なぜなのでしょう?

これまで細幅鍵盤に関する書籍、論文を検索したけれども、何もヒットしませんでした。日本人の手のサイズに関するデータすら、見当たりませんでした。いったい、音楽関係者、音楽教育関係者は何を研究されているのでしょうか?
それゆえ私は憶測することしかできません。憶測の結果は、ケアとサポートが欠けていた、というものです。

持ち運びができないピアノは、楽器のなかでもきわめて特殊な楽器で、ただ製造して販売すればよいものではない。どこでも、ないし、希望する場所で同じ鍵盤サイズのピアノが弾ける、という汎用性を保証しつつ販売するのでなければ顧客は購入したくても購入できないのです。この環境整備をメーカー様が担当すべきなのか、あるいは文部科学省などの公的機関が推進すべきなのか、一民間人の私には判断がつきかねる、というのが現状です。

 

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