渡辺美奈子『ヴィルヘルム・ミュラーの生涯と作品』

わが国で最初の本格的なW・ミュラーの評伝だ。副題に「冬の旅」を中心に とあるように、これまで「冬の旅」というとシューベルトのことばかり論じられていたので、詩人のW・ミュラーもちゃんと押さえなければ、というもっともな動機からであることが分る。たいへんな労作にはちがいない。小生はこの夏、「菩提樹変貌」と題してあれこれ雑文を書く際には、大いに活用させていただいた。とはいえ。まず「索引」がないのが、致命的な欠陥だ。たとえばW・ミュラーの正妻となった、アーデルハイト・バセドウの綴りも生没年も、どこにも見当たらない。(結婚の日時などは189頁に記載されているが。)何か引用しようとするたびに、全巻あちこちひっくり返すことになる。まことに親切な造りになっている。
さらに。W・ミュラーが「冬の旅」とほぼ同時期に書いた『ギリシア人の歌』について、ごく僅かしか紹介されていない。(『ギリシア人の歌』については、関西学院大学の岡市純平氏が紀要論文に詳しく紹介している。)全体としてW・ミュラーの生涯を追うかと思うと、「冬の旅」の解説、解釈に移行し、またW・ミュラーの生涯になる、というシャッフル仕立てになっている。それはそれで悪くないかもしれないが、それなら索引は必要不可欠ではないだろうか。固有名詞、作品名のノミネートを院生にアルバイトでやってもらって著者がチェックしたら、あとは出版部が頁数を入れてくれるのが普通。ぜひ増補改訂版を。