萩谷由貴子『蝶々夫人』と日露戦争
Amazonのレビューで5つ星が12レビュー続いた。(13人目が4つ星にした。)
これは著者の萩谷氏に送信したメールを再録しよう。
たいへん感動したので、勝手ながら(自分の気を落ち着かせるために)メールします。Amazonのレビューが、ボクなどより上手にまとめているので、まあそれで充分ですが。強いて付け加えると、
1.冷静で気品のある文体。誇張も詠嘆もない語り口で事実にのみ語らせる、というスタンスなのに、後半はもう、涙を拭きながらの 読書となりました。
2.ゆきとどいた調査。ある程度のオペラ・ファンなら大山夫妻とプッチーニ、アルゼンチンとの戦艦争奪のことぐらいは大まかに知っているけれども。「そういうことだったのか」と肝心の部分が期待以上に明らかになりました。日英同盟によりイギリスが、ロシアのバルチック艦隊にスエズ運河の通行を禁止した、とだけ聞いていたところ、運河の損傷を避けるために1万トン以上の戦艦の積荷を艀(はしけ)などに積み替えて通行せよとの通達、という賢明な(狡猾な?)形だったこと、など。203高地の攻撃は児島源太郎に交代して成功、噂に聞いた乃木大将の無能ぶりが瞥見されました。ジェノヴァのドックから日本に向けて出航しようとする二隻を「威嚇」していたロシア海軍の戦艦オスラーピアが、威嚇された春日、日新によって日本海海戦で砲撃されるなど、全編をつうじてあちこちに伏線が仕掛けられていて、ばらばらになりそうな素材が緊密に結びつけられている。
3.注がないのは基本方針なのでしょうが、できれば注も設けた増補版を。おそらく切り捨てた膨大な情報があることでしょう。旗艦三笠は英国ヴィッカース社製、というか連合艦隊の主力艦は、いまのラグビー日本チーム以上に、買い集めてきたヨーロッパ艦であったこと、これをたいていのインテリは知りません。ユダヤ人シフが一億ドル出して国債を買ってくれた、と聞いてはいますが・・・。ロシアのポグロムから逃げてきたシフの意趣返しだとネットにあるけれども、背後に何か作用していなかったのか(つまり英仏の代理戦争ではなかったか)とか、まだまだ知りたいことはたくさんあります。
4.大山久子、幸田延(のぶ)、美代子と、幼少時から和楽をきちんと仕込まれ、これが教養ある日本女性の基本であるらしいと分ります。伊沢 修二が東京音楽学校に和楽を設けなかったことなど、悔しい経緯もあれこれあることでしょう。―― 切りがないので、この辺でやめます。(疲れてきた。)まずはありがとうございました。