DS 5.5をこんな風に改造した。

前回の続きです。
打弦距離は変えようがない。心臓部のアクション(N氏は Abel だと言っていた。ドイツの Frankenhardt にある Abel Hammers のことらしい。)の据付け位置が固定されているから。
ハンマーから弦までの距離は、ほぼ変えられないし、サステイン・ペダルを踏んでも音がほとんど持続しないのも、変えようがない。出来ることから始める。
1.バランスレールの位置を右にずらした。
前回書いたように、a : b は5:4であるべきなのに、このコンソールではa : b が5:3になっていた。P技研工業のN氏は、バランスレールの位置を右に移動した。
なんとかして、左側の部分に全体の 4/9 が来るように修正するためである。これはほとんど不可能への挑戦だった。左側の長さを確保するために、キャプスタンの位置をギリギリの端に移動した。(つまり旧キャプスタン・ボタンを摘出して、その穴を埋め、あらたに端にキャプスタン・ボタンを埋め込むわけである。)
2.口板を半分の厚さに削った。
口板(くちいた)というのは、アップライト・ピアノの手前にある、鍵穴のある板のことです。

この凹んだ鍵盤の手前にある横板。これを半分の厚さに削るほかなかった。鍵盤全体を、8㎜ほど前方に出したからだ。全体のバランスを5:4にするために、バランスレールを前方に移動し、キャプスタン・ボタンを後方に移動したけれども、それでも鍵盤全体を前方に移動しないと、5:4に変更できなかったのである。
3.鉛を入れ替えた。キャプスタン・ボタンの位置を変えた。
すでにみたように、このピアノの鍵盤には多量の鉛が組み込まれている。N氏は、バランスレールを新規に設置し、5:4の比率に改めたので以前の鉛を取り出し、木材で埋め、あらたに日本製の鉛を埋めて、ダウン・ウェイト52g 、アップ・ウェイト25g に修正した。

左が修正後の鍵盤板。薄い茶色のマルは、もともとあった鉛を外して、木材で補填したもの。そこに新たに日本製の鉛を組み込んでバランスをとった。アメリカ製の鉛を外す作業は、もとの鉛の中心部にドリルを当てて、慎重に鉛だけを除去してゆく。木部(7/8サイズ鍵盤)を折ったりしたら一巻の終りだからだ。一本で3箇所。それが88鍵ある。気の遠くなるような作業だ。右の先端の上に、新設のキャプスタンが見える。これもアメリカのキャプスタンを除去して、木材で埋め、あらたに先端に近い部分に埋め込んだものだ。

多層合板

4.多層合板の問題(ハンマーが折れそう)。 調律しながらISAMU. H氏が「ハンマーが折れそうだ」と悲鳴をあげた。ピン(ピアノ線を巻き付けるネジ)を植え込んである多層合板が堅くて、ピンを締めることができないのだ。これはこのピアノの欠陥というわけではない。原産地ペンシルヴァニアと日本の気候の違いによる。
左はピアノの蓋をあけて上から見た多層合板。木目がタテ・ヨコ交差するように貼った合板でピンをがっちり固定する。それでも日本に来てほぼ1年、湿気を吸って板が膨張し、ピンを回すことがきわめて困難になっている。逆に日本のピアノが欧米にゆくと、湿気がなくなって乾き、ピンがゆるゆるになるという。やはり日本で弾くピアノは日本で作るのが最善であるらしい。
5.これはコンソールであって、アップライト・ピアノではない。
シュタインビューラー氏のカタログにも、注文請書にもアップライト・ピアノと書いてあるけれども、これはコンソールである。えーと、もう細かいことは言いたくない。
『日本のピアノ100年』(草思社文庫)をみると、「コマーシャルピアノ」という名称がある。(100頁)1870年ごろから、アメリカの目端の利く実業家が、大衆向けの安価なピアノを市場に提供した。これは、上品に言えば市場用ピアノ。ぶっちゃけて言えば「ボロ儲け用ピアノ」(失礼ながら)である。はっきり言って、ピアノと言える代物ではない。これを、アメリカの中産階級ないし貧困層が、うちでもピアノが買える、と購入したのである。
続きは次の投稿に書きます。

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