Dr.酒井の論文。古い鍵盤楽器のキーボード巾について。
Dr.酒井の論文があります。「ピアニストの手のスパンと酷使の問題に関連する、古い楽器の鍵盤の巾について」(Article in Medical problems of performing artists 23(4):169-171 · December 2008 with 37 Reads)私なりに日本語訳してみました。
「古い鍵盤楽器のキーボードの巾(つまりオクターブ巾)を調査して、現代のピアノのスパンと比較してみた。これはピアニストがしばしば体験する酷使による障害が、手のスパンとキーボードのスパンとの齟齬によって引き起こされているかどうかを調べるためである。測定したのは120台の古い鍵盤楽器。すなわち26台のハープシコード、8台のクラヴィコード、7台のスピネット、4台のヴァージナル(16~17世紀のハープシコード属)、75台のピアノフォルテ、および20台のスクエア・ピアノ(1559年から1929年まで製造されたもの)である。C4キーの左側とC5キーの右側との間のキーボード上の距離を測定した結果、最も古いハープシコードとピアノフォルテは、現代のピアノと同等のキーボード巾を示した。 18世紀後半から19世紀初頭にかけて、スパンは平均3〜6 mm減少した。 19世紀後半、キーボードのスパンは188 mmサイズに戻り、それが現代のスパンとなっている。不幸なことに、それまでの100年間に作曲された有名なピアノ作品のほとんどすべては、より小さなキーボードを使用したものである。そしてこの事実は、現代のピアニストが今のキーボードで困難なピアノ・テクニックと格闘するという逆説的な状況 (the paradoxical situation) と符号する。今のキーボードは18世紀と19世紀の作曲家が使用したものよりもだだっ広い (broader) からだ。」
あっさり「矛盾」(Paradox) と言ってもいいだろう。今のピアノでモーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、ショパンほかの作曲家の作品を弾くのは、無理なのだ。