『桜姫東文章』の仁左衛門と玉三郎
君子豹変とは聞いていたが、姫も豹変するらしい。出家しようと剃髪を待つ桜姫(玉三郎、桜谷草庵の場)のもとへ、文遣いとして釣鐘権助(仁左衛門)が現れる。権助が面白おかしく「昼間の幽霊」の話を腕まくりしながら語ると、その腕の入墨をみて、これが去年二月に押し入って自分を手籠めにした男だと知った桜姫。腰元たちを下がらせて、権助に自分も腕に入れた「釣鐘に桜」の入墨を見せる。そして春機発動。戸惑う権助を誘う玉三郎の妖艶さ。陶然とあらぬ方を見遣りながら語る玉三郎の、かすかにゆるく、かすかに甘い口舌は、絶品と言うほかない。背後から権助が桜姫の胸元に右手を突っ込んで左の乳をつかむ瞬間は、ぞくぞくっとさせる。
「36年ぶりの共演、ぜひ見るべし」と、劇場フリークの知人からメールが入った。残席僅少なので奮発して1階12列2番、15,000円をゲットした。着席してみると、左右の5つの席はテープで封鎖してある。つまり6人分の席をボク一人が独占している恰好だ。ということは、このチケットは実質9万円分なのだ。コロナ禍のなか、松竹のド出血サービスである。
見得が決まったときに「松嶋屋!」とか「大和屋!」とかの声がかからないのは淋しい。拍手だけが許可されている。でもボクは拍手すらできずに、ひたすら双眼鏡を覗いていた。仁左衛門の権助は絵に描いたような色悪。(と解してよいのか不明。色悪は白塗りであるらしい。)数十年前に「十六夜清心」で孝夫の臑毛(すねげ)を見たのが、今も記憶に残っている。(歌手の臑毛を見せるオペラがあっただろうか?)
鶴屋南北の結構は複雑怪奇。筋書きを読んでも芝居の途中で、どういう関係の人だったか分からなくなる。そもそも桜姫が、父と弟を殺した犯人を慕ってよいのかしら、お姫様がいつ入墨を入れることができたのか、などなどマジメに考えると理解困難なところは沢山ある。こういうのが江戸の歌舞伎だった、らしい。
久々に訪れた「銀座」は様変わりしていてほとんど外国でした。山野楽器でGUIDOの詳しい説明を聞くことができた。(makerが最初にコンタクトをとったのが山野楽器だったとか。現物を操作することも可能です。)お礼も兼ねて、Grünfeldの Soirée de Vienne を注文した。