ウチのDS 5.5 は、こんなピアノでした。
これまで何度か説明してきたつもりだったが、7/8サイズ・キーボードについての質問が時々来る。いちどきちんと説明する必要があると考えて、ここにご報告します。(なお、たまたま Kurze Finger のところに届いたピアノ(正確にはコンソール)がこうだったのであって、他の製品は問題ないかもしれません。さらに。ボク Kurze Finger は、本製品を誹謗中傷するつもりはありません。ほかに、問題なく弾いている方々もいるようです。)
1.沈んだままの鍵盤。
アメリカから空輸され、業者がやっと届けてくれたピアノの蓋を開けてみて驚いた。鍵盤が一つ、沈んだままなのだ。
こんなことがあっていいのだろうか?新品のピアノを購入したはずだ。
その後の検証で分かったことだが、鍵盤のバランスを調整するための鉛が、板の平面からはみ出しているため、それが隣に引っかかって、キーが戻らなくなっていた。
2.鉛の位置、キャプスタンの位置、穴の開け方が違う。
左は修正前の鍵盤と鉛。この木材の反対側は、穴の上下の木部が剥がれていた。通常、重りを入れる穴は(日本では)半分ドリルで開けたら、裏返して反対側から開けて、綺麗な穴にする。このピアノを作った職人は、一気にドリルで反対側までぶち抜いている。しかもその穴に直接、溶けた鉛を注入している。日本では、単位としての小さな鉛が用意されていて、それを位置を測りながら埋め込んでゆくのだそうだ。アメリカ人がこんな荒っぽい作り方をしていたのでは、まともなピアノになっているだろうか?(もちろん、なっていませんでした。)キャプスタンの位置も、のちに説明するように、不適切でした。
3.鍵盤の沈み込みが深すぎる。
鍵盤を押したとき、その沈み込む距離は、10㎜+-0,5㎜ と決まっている。このピアノの場合は13㎜ であった。沈み込みが深すぎると、連打ができなくなる。(もともとアップライトはグランドと較べて連打に不向きなのだから、なおさら。)沈み込みがマチマチだと、レガートで弾くことも不可能になる。ただ杓子定規で10㎜+-0,5㎜でないとだめ、と決まっているわけではないのだ。調律師のISAMU. H氏は、ポケットから小さな器具を取り出して、沈んだ鍵盤の上に載せ、「あ、ダメですね」と一言。10㎜+-0,5㎜になっていないからだ。
4.鍵盤の down weight と up weight がバラバラです。
やや専門的な話になるが。 down weight とは、ペダルを踏んだ状態で鍵盤上に分銅を置いて、鍵盤が自然に沈み込む重さ。
写真のようにペダルを踏んで、分銅を鍵盤に載せて計測する。52g で鍵盤が沈むようになっていなければならない。このピアノの場合、45g、55gなどバラバラだった。
up weight は、同様にペダルを踏んだ状態で、沈み込んだ鍵盤の上に分銅を置いて、鍵盤が自然に上に戻る重さのことである。基準は25g。しかしこのピアノの場合30g、29g、35gなど強いバラツキがあり、重い。黒鍵の基準はまた別で、やや軽くなるはず。しかしこのピアノの場合、30g以上あり、キーによっては分銅全部を載せても起き上がってくる。ものすごく強い up weight になっている。
5.打弦距離が近すぎる。
打弦距離とは、ハンマーから弦までの距離。基準値は46mmから48mm。しかしこのピアノの場合、高音部が44㎜、低音部が41㎜だった(すでにバラついている)。近すぎる。どうしてこうなったのかは、次のバランスレールの不適切な位置から説明される。
6.バランスレールの位置が間違っている。
ピアノは、バランスレールのピンを支点として、キーグリップ上に力点があり、キャプスタン・ワイヤーの箇所に作用点がある。コンソール・ピアノの場合a : b は5:4と決まっている。ところがこのSteinbuhler-Walter社のピアノは、a : b が5:3だったのである!
これでは作用点のキャプスタンに伝わる力が別物になってしまう。
7.大改造をした。
調律師ISAMU. H氏は、一目みて「すぐに返品しなさい」と言った。しかし現状では7/8サイズ・キーボードはこのピアノにしか装着されていないのだから、返品できない、このキーボードで弾くほかはない、と Kurze Finger は訴えた。ISAMU. H氏はすぐにケータイを取り出して、あちこちの業者に問い合せた。つまり7/8サイズ・キーボードを作ってくれないか、と聞いたのだ。しかし日本鍵盤はじめ、昔はやってくれそうだった業者は軒並み、高齢化や後継者不足で廃業しており、もう特注を受けてくれるところは皆無だった。やむなくISAMU. H氏は、浜松のP技研工業のN氏に改造を依頼した。その内容は次回の投稿でご説明します。