ソウルからK君が試弾に来ました
よほどDS5.5のピアノを弾きたかったのだろう。到着してすぐに、K君は、背中にリュックを背負ったまま椅子に座ってピアノに向い、和音を弾き始めた。それからタブレットを出して、英語のチュートリアルを聴きながら、和音を弾き続けている。そのまま二時間ほどが経過。ボク Kurze Finger は、少し離れた場所で年賀状の整理をしていた。「試弾者はまず、放し飼いにする」というのが基本方針。
「疲れたのでちょっと休憩します」とK君。それから情報交換が始まった。
彼が以前参照していたのは、Mark Levine 著 The Jazz Piano Book。
かなりポピュラーな入門書だという(レビューをみると、中上級者向け、という評価もある)。
それを聞いて検索すると、日本語版がヒットした。
「え、日本語訳があるの?!」とK君。韓国では英語版で勉強するしかないらしい。
これを活用しないのは勿体ない、と思って、Amazonで中古本を購入した。(本は翌日届いたが、活字が小さくて老眼には優しくない。)
K君は以前、著名なジャズピアニストの Kwak Yoon-Chan の元で趣味で勉強していた。現在は会社員としてジャズ聴くことを楽しんだり、たまにジャズチュートリアル・ビデオを見る程度。今回来訪してジャズピアノを弾くのは7~8年ぶり、かなり久しぶりだった。いつかDS5.5のピアノを手に入れたら、また本格的に始めるかもしれない、とのこと。Kwak Yoon-Chan のYoutubeを貼りつける。
K君は高身長のイケメンなのだが、写真は顔出しNG。後ろ姿もダメ。指の写真だけOKとのこと。
左手でド~ミ。
左手でレ~ファ。
左手でB♭~レ。DS5.5のピアノだから、やっと届いている。
K君の場合、指はスラリと長いのだが、親指の第二関節が固まっていて、開かない。ピアノを弾き始める時期が遅かったのかもしれない。他方、幼少時から無理に180度に開いて練習していた人には、腱鞘炎など故障に悩むケースがある。身体のサイズに合わせて分数楽器をあてがう、という発想がピアノにないのが不思議。
K君に林知行先生の『ビル・エヴァンスが弾きたくて』を見せると、「それ持っています」とのこと。
さらに、別の楽譜、「’Round Midnight」を見せると、
「えっ!指使いまで書いてあるの?」と驚いていた。ジャズの教則本には、あまりないのかも知れない。
日本には、とりわけ林知行先生の仕事には、クラシック畑出身でヴォイシングもアドリブもできない不器用なピアニストのための、このような編曲譜がたくさんある。
K君から「試弾に行ってよいですか?」とメールが来たのが、12月31日。もともと1月5日羽田着で、9日に羽田を発って帰国する予定だった。そこへ1月1日の能登半島地震。C滑走路が閉鎖され、羽田に着陸できるか不明となり、成田着に変更するべきか、その際の追加料金は・・・など、一時はほとんどパニックに近い状態だった。でも、無事予定通り羽田に着陸。わが Kurze Finger スタジオには、軽々と徒歩でやってきた。「散歩でした」。
K君はこのあと、青山のブルーノートで本田雅人のSaxを聴く予定だとのこと。ボク Kurze Finger はブルーノートには行ったことがない。お金持ちの行くところで、下流老人には縁がないと思い込んでいた。ところが韓国の30歳台の青年が、ミュージシャンを追いかけてはるばる来ているのだ。反省。
今回のK君の来訪のお蔭で、われわれ日本人がどれほど恵まれた環境にあるのか、教えられる結果になったように思う。それを活かしきれていないのは(ボク Kurze Finger だけかも知れないが)、申し訳ない。