ブラザー細幅鍵盤を守れ!

これが弾けなくなったら、お終いなのです。見渡すかぎり、入手できる細幅鍵盤ピアノはどこにもありません。時おり、ヤフオクとか中古ピアノ市場にブラザーが出ることがありますが、細幅鍵盤でないことは一目で分かります。

低音部の棚板が広ければ、細幅鍵盤なのです。(鍵盤巾が狭い分、棚板が広くなる。)
そして GU-131 の刻印で、15/16サイズの細幅鍵盤 (DS 6.0) であることが分かります。
もっかボク Kurze Finger が弾ける細幅鍵盤は、これ(とSteinbuhler-Walter社の7/8サイズ鍵盤のコンソール)しかないのです。

調律の記録をみると、納品調整が昭和48年(1973年)なので今年で50年目になります。
1983年ごろ、ボク Kurze Finger は、ブラザーの社長に長い手紙を書き、その結果店頭価格72万円のブラザー・ピアノを半額の36万円で譲ってもらいました。1984年にブラザーがピアノ製造から撤退したので、いいタイミングだったのかも。ただし店頭展示品だったらしく、状態はよくなかった。1986年、本体製造のアトラスピアノが事実上倒産。代替部品の調達が難しくなった。
その後、ある調律師はざっとこのピアノを見て「ウチでは扱えません」と言って帰って行きました。別の調律師は、弦の調律だけして7万円を取っていきました。現状はほとんど粗大ゴミ。それでもこのピアノを弾くしかないのだ、ということを理解してくれたのが、ISAMU. H氏です。
1.調律師ISAMU. H氏に1年ぶりに調律を依頼。*低音部を弾くと、ズーンと不快な雑音が鳴る。*鍵盤がぶよぶよしていて、音の立ち上がりが悪い。*ダンパーペダルを上げると、ガン・ガンという音が鳴って困る。などの症状を訴えました。
2.ISAMU. H氏が午前10時にメルセデスベンツで到着。(Tホテルのグランドピアノの調律には、この車で午前5時に乗りつける。宿泊客が起き出さないうちに調律するとのこと。)まず低音部の雑音から。
3.低音部の浮き上がったダンパーの調整。

低音部巻線(一本打ち)のダンパー(尾崎ピアノ調律所HPより)が、密着しておらず、浮き上がっていたため、共振して雑音を発生していた。木製のセンターレールが歪んで、ダンパーがズレてしまっている。(現在ヤマハなどのセンターレールはアルミ製で、歪まないという。)

この図の85番がセンターレール。(piano clinic HPより)これを付け替えるのは至難の業。
それゆえ、ダンパーワイヤーを前傾させて、弦に密着させる作業に入った。

この図の緑色の線が、ダンパーワイヤー。このワイヤーを、弦やハンマーシャンクのすき間から、曲げてゆく(図は magic star のHPより)。

名称は聞き漏らした。こんな感じの器具でダンパーワイヤーを曲げていた。
これで低音部の雑音は鳴らなくなった。
4.キャプスタン・ボタンの調整。

キャプスタン・ボタンには小さな穴が空いている(浜松楽器HPより)。
これを回転させることにより(いくつかの介在物を経由して)ハンマーが動き出すタイミングを調整する。音の立ち上がりを良くするには、密着度を上げればよいのだが、あまり密着すると連打が効かなくなるという。若干の「あそび」が必要。

ISAMU. H氏は、一つ一つ鍵盤を押して、ハンマーの動きを見ながら、キャプスタン・ボタンを締めてゆく。これにより、鍵盤の「ぶよぶよした感じ」はなくなった。

5.ハンマーの針刺し。
ISAMU. H氏は、ハンマーの下部三分の一あたりに針を刺した。

下部に針を刺すと、コットンが締まる。すると倍音が押さえられるのだそうだ。倍音が低減されれば、叩いたキーの音がくっきりと響く。(逆に、ハンマーの上部に針を刺すと、コットンがゆるみ、倍音が出るようになるという。)針の差し方は、低音部では深さ3㎜、中音域では2㎜、高音部では1㎜。
これにより、打鍵した音は以前よりクリアになった(ような気がする)。

6.ハンマーシャンクの調整。
木製のハンマーシャンクは、左右によじれる。
これは、それぞれのハンマーの間隔が不揃いであることでも分かる。(写真は、わが家のSteinbuhler-Walter社コンソールのもの。)

ハンマーシャンクの位置については、3のmagic star社のアクション図を参照のこと。
ISAMU. H氏は、火口の長いライターで炙りながら、シャンクを曲げてゆく。
こうしてハンマー・ヘッドは、綺麗に揃った。

7.ファイリング(紙やすりでヘッドを削る)。
修正されたハンマーヘッドには、これまでなじんでいた三本の弦(ないし二本)の溝がくっきりとついている。これを除去するために、紙やすりをかける。とはいえ「替り」のないブラザー/アトラスのヘッドであるから、恐る恐る、最低限のファイリング。

8.フロント・ピンの調整。
これはSteinbuhler-Walter社のコンソールで行われた。ISAMU. H氏は小生のYoutube画面を見て、「鍵盤がきれいに見えた方がいいから」と調整してくれた。(画像は島村楽器HP)


画像は、フロント・ピンを調整するISAMU. H氏。

9.ダンパーペダルの調整。
基本的には、右端のダンパーペダルの穴の上部に貼り付けてある緩衝材の劣化が原因。
ISAMU. H氏は、持参の緩衝材を貼り付けてくれた。
ところが、その後ピアノを弾くと、やはりガツン、ガツンと音がする。
どうやら、元々のアトラスピアノの天秤の発条(ばね)が強力すぎるらしい。

(図は『ピアノのすべて』より)この発条を交換することも困難なので、緩衝材を付加することにした。台所にある、食器洗い用のスポンジ。これは片面にゴワゴワした堅い組織が付着している。いくつかのスポンジから、堅い組織を切り取ってはめ込んでみた。

厚すぎても、薄すぎてもダメ。このピンクの組織をはめ込んで、やっとOKになった。
とはいえ、これによってダンパーの効果がやや劣化したので、蝶ナットをゆるめてサステインを長めに調整した。軸棒の溶接がバラけて空回りするので、ペンチで軸棒を押さえてから、蝶ナットをゆるめる。
ここまで、何度も畳に腹ばいになり、試行錯誤の連続。
このような余計な苦労なしに、ふつうにピアノを弾いて、時にふつうに調律してもらって済んでいる方々は、なんと幸せなことか。ボクも、ふつうに15/16サイズ、ふつうに7/8サイズ・キーボードのピアノを、当たり前のように調律してもらって弾く生活を送ってみたいです。なぜできないのでしょうか。
10.空調、暖房関係。
デジタル・チューナーを見てISAMU. H氏が「全然変わっていない!」と叫んだ。ブラザーのA音(441)が昨年2月の調律以降、1セックもズレていないのだ。
おそらくこれは、加湿器の影響だ。やや大型の加湿器を導入したからだ。

それまでの8畳~10畳程度のふつうの加湿器ではダメだった。ウチのリビング・ダイニングはカウンターキッチンを含めると、20畳ほどになる。(ま、もちろん大した広さではありませんが。)
このAONCIAは、一日にバケツ二杯分の水を、水蒸気に変える。ブラザー・ピアノ周辺で湿度は60%前後に保たれる。
他方、Steinbuhler-Walter社の7/8サイズキーボードのコンソールでは、「中音部が上がっている」とのこと。米国ピアノは、湿度30%で保管した木材で作ってあるから、わが家の水蒸気を吸収して木材が膨張したため、音程が高くなったのだ。
ガスファンヒーターも、無視できない。あまりに寒かったので、これまでのチャチなガス・ストーブを買換えた。リンナイの RC-T5801ACP は、一時間に2000Kcal. の暖気を放出する。

強調したいのは、その「空清サーキュレータ」である。花粉とかダニの糞とかを除去できるのは、まあ結構であるとして、サーキュレータが、強風を天井まで噴出して、天井の暖気をかき回し、室内の空気を均一化してくれる、これは買いです。

 

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