白塔歌仙会 第381回「鵺の声」の巻

2018年5月26日(土)、笈羅さんの立句から始めました。
脇句の十薬とは、ドクダミのことです。新居の庭にも、玄関脇にもたくさん生えています。白い十字はじつは花ではなく、萼なのだそうです。
5句の「いい月だ・・・」は、国立博物館にある国宝、久隅守景の「納涼図」を踏まえています。
11句の環状列石は、ストーンヘンジのこと。ハーディ『テス』にも出ていたような。
20句の熊谷守一。ちょうど山崎努主演で映画化。21句は、要町の近く、千早町に熊谷の居宅があったことから。
23句はもちろん太宰治の『桜桃』から。その前の22句に「定例の集い」とあり、20年ほどまえに参加していた「白百合忌」を想起したためです。長篠康一郎氏が、玉川上水で太宰と心中した山崎富江を偲んで白百合忌を営んでいました。それまでの太宰の擬装を鵜呑みにした感想文のような文学研究を、一気に無効にした、長篠氏の実証的研究は、早坂のムージル研究にもインパクトを与えています。
26句。江古田のピアノ・アパート。奔放な音大生の部屋から喘ぎ声が漏れてくると、あちこちの窓がこっそり開きます。
29句。バート・イシュルの皇帝フランツ・ヨーゼフの館のイメージ。仕留めた鹿の角が壁一面に飾られている。満月に彼の霊が出るかどうかは不明。
34句。前の句に「物語」があるので、東京物語にしました。これは明らかにシェークスピアの『リヤ王』のリメイクでしょう。フロイトは3姉妹を春・夏・冬として、三女のコーディリアを冬とし、リヤ王が最終的に「死」の手に収まる、としました(むかしは秋という季節はなかった、と説明して)。ただし尾道では次女の京子(香川京子)が両親の面倒をみているので、老後のケアは京子が引き受けるとみられる。「死」を体現しているのは戦死した次男の嫁紀子(原節子)であって、紀子は義母とみ(東山千栄子)を死んだ次男の布団に寝せることにより、死を伝染させる。(このあたり、ネットのfufufufujitani氏の解釈によっています。)笠智衆は原節子に、亡妻の形見の時計を渡す。戦死した次男の嫁として停止していた紀子の時間が動き出す。つまり再婚もありうる、という義父の許しを得た。『リヤ王』では最終的に「死」の手に収まるところ、東京物語ではまったく逆で、「死」の手に収まっていた紀子が、生に向かって蠢動するきっかけが暗示されて終る。