ドーリス・デリエ『奇跡にそっと手を伸ばす』

名著『オリエンタリズムとジェンダー――「蝶々夫人」の系譜』で知られる小川さくえ氏が、ドイツの映画監督(他)ドーリス・デリエの小説 “alles inklusive” (込み込み:パック・ツァーの費用の表現)を邦訳した。
以下に、訳者の小川さくえ氏あてのメールを再録する。
「オレンジの月」が一番気に入りました。不動産屋のアンヘリータのプロの手口とかね。まあ、全体にスペインに行ったドイツ人がどんな感じなのか、それはそれで興味津々でした。自分はむかしむかし、ネルハのパラドーロに一泊したことがある。ま、思い出としてはその程度で充分か。「羊毛」も。ディエゴを、デラックス・マツコを想像しながら。ドーリス・デリエは、映画監督だけあって、とんでもないことを知っている。(どうして映画監督っていう人種は物知りなのだろう?) それが要所要所で切り札のようにひらめくので、短編が締まってくる。
訳者の小川さくえ 様も、すごい腕前と思います。「 」なしで、誰の科白か分からせるとは。―― とまあ、ポジティヴなことはその位にして。最後のあたりは、ちょっと閉口。
なんというか、おしろいとドーランの匂いが立ちこめるというか。こりゃ、どーしても女性の世界です。出てくる男性がみな長身で金髪碧眼で(栗色の髪もいたかも)、手がきれい。少女漫画のよう。(というと、ジェンダーの先生から「男の小説には美女ばかりでてくるじゃないの!」と叱られそうですが。)
*えーと、怒らないで欲しいのですが、これは「原作」として、女流漫画家にマンガにしてもらうと、そこそこ売れるのでは。マンガだと映画なみに絵があり、科白もあり、さらに解説みたいにコマにコメントを割り込ませることもできるのでは。タイトルは「コスタ・デル・ソルのだめんずうぉーかー」とか。――妄言多謝。