世界3大ピアノ聴き比べ

Bösendorfer, Steinway, Bechstein

を聴き比べる、という夢のような企画。ピアニストは知人の松原聡氏。杉並公会堂にこの三台が並びました。オペラシティ並の空間。ここに3台のフルコンサートが並んだ。残響もたっぷり味わえる。たとえて言えば、鈴鹿サーキットでスーパーカーが存分に突っ走るようなもの。(ウチの近所にはBMWとかVolvoとかがカーポートに――ひどいときは貸駐車場に――置いてあるけれども。ばっかじゃなかろか。時速100㎞超で逮捕される日本で、そんな車を持っても仕方がない。スタインウェイで「猫踏んじゃった」しか弾けないようなものだ。日本ではカローラか、日産マーチで充分。というか搾取されるよりは車を持たないのが一番です。)ああ、本当のピアノの音というのは、こういうものだったのですね。ウチのブラザー・アップライト・ピアノで弾いていたのは、9割引というか。プラモデルだったのかも。これまでラーメンを食べていたつもりが、じつはカップヌードルだった。そんな感じ。それぞれのピアノの良さが、いくぶんか分った感じがする。Bechsteinの音は、いい寿司屋が研ぎ澄ました包丁で切った刺身のように、角がぴしっと立っている感じ。スタインウェイは耳あたりがよい。神戸屋キッチンのフルーツケーキの上にゼラチンがかかっていて、イチゴやフルーツが色鮮やかに見える。Bösendorferは有機的な音、というべきか。ヤマハはベヒシュタインをお手本にして作られたとか。さらに。調律師H氏によると、第二次世界大戦末期のドイツで、連合軍つまりアメリカ軍は、ベルリン郊外のベヒシュタイン工場を徹底的に爆撃、のみならず、公会堂、学校などのベヒシュタインも銃撃などで破壊。戦後コピーが作成されないように、徹底的にベヒシュタインを抹殺して、それからスタインウェイを売り出したという。それから。「スタインウェイ物語」という本がある(H出版局)。ドイツからアメリカに移住した元祖シュタインヴェーク氏は、文書に署名するとき「×」を書いた、つまり文盲だったという。(ここで脱線すると。ポネル演出、ドミンゴ、フレニの『蝶々夫人』のDVD(1974年)では、婚礼の場面でフレニの蝶々さんが嬉々として、毛筆で「×」を書いている。武家の娘が芸者になって、文盲のはずがない。)ついでに。この「スタインウェイ物語」を読んでいると、「ゾルフェライン」というのが何度も出てくる。何だろうと思って調べると、Zollverein つまり関税同盟のことだった。ドイツ語の辞書には必ず出ている。訳者はサンフランシスコ大学翻訳学科修士卒だそうだが、Steinweg氏の伝記なのだから独和辞典ぐらい調べてほしいものだ。/さて。第3部では抽選に当たった一般人が、ひとり合計5分、3大ピアノが弾けるという。小学生、中学生ぐらいの子供たちが出てきた。「ちょうちょう」でも弾くのかとおもったら、とんでもない。すばらしい演奏続き(曲名すら知らないものが多かった)。中学生の少女がバッハ平均律(?たぶん)、ショパンのエチュードOp. 10の8を弾いていた。高齢者はダメでした。音大生(たぶん)はアルペジオ手抜き。小父さんは、ペダル踏みっぱなしでむずかしそうな曲を弾いていたけれども、濁った音に耐えられず、ここでボクは退散しました。

連句

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